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東京ワーキングマザーログ

「またの名をグレイス」ー 主観と客観の狭間

「ハンドメイズテイル」に続く、マーガレット・アトウッド原作のドラマ化、「またの名をグレイス」。ドラマ化されていると知って原作を読み、それからドラマを観た。Netflixの6話完結のミニシリーズ。なので割愛されてる箇所も多々あったけれど、基本的には原作にとても忠実。482ページ(「ハンドメイズテイル」の1.5倍!)もの原作をコンパクトにまとめつつ、ドラマとしても面白く仕上げられてる。

時は19世紀半ばのカナダ。年若い女中と厩舎係の男が、屋敷の主人と女中頭を惨殺して金品を奪って逃走した。二人は逃亡先のアメリカのホテルで捕らえられ、主犯の男は絞首刑に。まだ16歳の女中グレイスは、犯行時の記憶がないと主張するものの、終身刑に処された。それから15年後、記憶喪失のグレイスの無実を信じる人々に請われてやってきた若き精神科医は、グレイスと対話を重ねながら、失われた記憶と真実を探ろうとする… というのがざっくりとした話の皮切り。ストーリーはグレイスの回想を中心に、過去と現在を行き来しながら進んでいく。

これ、実は1843年に実際に起きた殺人事件で、グレイスも実在の人物。事件当時は相当センセーショナルだったらしく、グレイスは殺人犯としてカナダ史上悪名名高い。しかし、果たしてグレイスは男を操って犯行を唆した評判どおりの悪女だったのか。あるいは本当は男に脅されて犯罪の道連れにされただけの無垢な少女だったのか。

語り手の信頼性、あるいはその言葉の信憑性に、自らの視点を揺さぶられる心理ミステリー。話のなかで重要なモチーフであるパッチワークキルトのように、グレイスの主観、周囲の客観による小さなストーリーがいくつもいくつも剥ぎ合わされていき、やがて浮かび上がってくる絵柄は恐らく見る人(読む人)次第で異なる。

グレイスを演じるSarah Gadonはまさに原作のイメージどおりのグレイス。透き通るように白い肌に、澄み切った青い瞳、端正でクラシカルな顔立ち。グレイスの抱える複雑な闇を、無垢とも仮面とも取れるような抑えた演技と微細な表情の変化で表現しきっている。特に印象的なのが、モノローグとともに表情で人格を変えてみせる冒頭のシーン。上手い。

原作者が同じというだけで「ハンドメイズテイル」と並べて評されることもあるようだけれど、そこはあまり意識せずに見るのがおすすめ。架空のディストピアと史実をベースにした話をまとめて語るのは無謀すぎる。